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東京地方裁判所 昭和39年(ワ)3056号 判決

原告

フレツド フアールニ

右訴訟代理人弁護士

米原克彦

外二名

被告

株式会社岩倉組

右代表者

岩倉春次

右訴訟代理人弁護士

野口良光

外一名

右輔佐人弁理士

永田譲

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

《省略》

理由

一原告が本件特許権をその主張の期間有していたこと、本件特許請求の範囲の記載が原告主張のとおりであること、本件特許発明の構成要件が原告主張のとおりであること、被告が、熱プレスに挿入して圧縮する際生ずる蒸気を核心層用木片の間の空隙から外部に排出させていたとの点を除き、原告主張の方法でパーテイクルボードを製造して販売していたことはいずれも当事者間に争いがない。

二そこで、被告のパーテイクルボード製造方法が本件特許発明の技術的範囲に属するか否かについて検討すると、まず、前記当事者間に争いのない本件特許発明の構成要件及び特許請求の範囲の項の記載に本件特許公報の記載を合わせ考えると、本件特許発明は、少なくとも、核心層用の原料木片として小裂木片あるいは小砕木片を選択使用し、この小裂木片あるいは小砕木片を各方向に不規則に集合配置して核心層を成型し、このような核心層の成型により核心層用木片の間に介在することになる肉眼で認め得る空隙から熱プレスの際に生ずる蒸気を外部に排除することを必須の要件とするパーテイクルボードの製造方法であると認めることができる。

ところで、右認定本件特許発明の必須の要件にいう小裂木片あるいは小砕木片は、前記本件特許公報によれば、表面層用の原料木片としての小削木片が、大きな塊状の濶葉樹あるいは針葉樹を削つて作られるような鉋屑状の薄くて平らな幅広い、例えば、0.5ないし5平方センチメートル大の、機械的に散布すれば、幅広い面が水平方向においては不規則であるが、水平に重なり合つて横たわるような形状の小木片であるのに対し、製材あるいはベニヤ板、合板、家具板の製造あるいは家具製造の際に生ずる製材残物、円板状に残つた幹端、木材外皮あるいは枝材、根材、ベニヤ板用剥削器加工の残物あるいはベニヤ板、合板等の屑片、その他古材のような材種、形状、大きさ、色彩のいかんを問わない任意の木材屑を打撃粉砕機内で叩き割り、あるいは裂き割るようにして粉砕することにより作られるような粗い形状の、例えば、長さ五ないし一〇ミリメートル、幅五ないし一〇ミリメートル、厚さ一ないし五ミリメートル程度の、小木片であると認められる。また、右小裂木片あるいは小砕木片は、これを核心層として成型するに当つては、前記のように各方向に不規則に集合配置するものであるところ、本件特許公報には、その手段、方法として周知の散布装置により一様に散布すると記載されているほかには、特別の記載がないから、周知の散布装置により一様に散布するだけでおのずと各方向に不規則に集合配置されるようになると認めなければならない。さらに、このように集合配置された核心層用木片の間には、加圧圧縮にもかかわらず前記のように肉眼で認め得る空隙が介在するものであるところ、本件特許公報には、このような空隙を介在させるための手段、方法については全然記載するところがないから、右空隙を介在させるためには、特別の手段、方法を構ずる必要がなく、ひいては、右小裂木片あるいは小砕木片は、これを前記のように散布して各方向に不規則に集合配置するだけでおのずと隣接木片との間に肉眼で認め得る空隙を介在させ、これを加圧しても右空隙にさしたる変化を来さないようなものであるとも認めることができる。

さて、本件特許発明の必須要件にいわゆる小裂木片あるいは小砕木片が右認定のようなものであるとするならば、それは、これと使用目的を異にする右認定表面層用小削木片の形状等をも念頭においてこれとの対比もしながら考察すると、主として、幅広い平らな表裏二面を持つた薄片状のものではなく、主として、不規則で粗く、しかも、比較的小さな面多数を持ち、全体として雑多なほぼ塊状を呈している小木片からなるものであるといわなければならない。けだし、右小裂木片あるいは小砕木片が木材屑を粉砕して作られるような小木片である以上、それが幅広い平らな面を持つた薄片状になる確率は極めて小さく、むしろ、不規則で粗く、しかも比較的小さな面多数を持ち、全体としてほぼ塊状を呈するものになると推認するのが経験則にも合致するし、また、もし、右小裂木片あるいは小砕木片が幅広い平らな表裏二面を持つた薄片状のものでも差支えないとするならば、これを周知の散布装置によつて一様に散布するときは、空気抵抗を受けて幅広い平らな面が水平になつて落下し、勢い一様に幅広い平らな面がそのまま水平になるよう横たわることになり、また、そのとき当然のことながら、幅広い平らな面同志が平行に重なり合うに至ることは自明の理であるから、それは、水平方向に不規則に集合配置されることにはなつても、各方向に不規則に集合配置され、あるいは、このように集合配置される木片間に肉眼で認め得るほど大きな空隙を介在させるに至ることは、まず不可能であり、これらが不可能であるとすれば、核心層用木片を各方向に不規則に集合配置し、各木片間に肉眼で認め得る空隙を介在させることにより、核心層における表面層との接触部分の面積を広くして核心層と表面層との接着を強固にし、あるいは、熱プレスの際に発生する蒸気を容易に外部に排出し、あるいは、比重の小さい板を得るといつたような本件特許発明の目指している作用効果を奏することが不可能となることが本件特許公報に記載されていることに照らし明らかである。これに反し、右小裂木片あるいは小砕木片が、右認定のような形状のものであるとするならば、これを周知の散布装置を用いて散布するときは、一定の姿勢で横わることはなく、その形状や落下時の偶然の事情に支配されて種々の姿勢で横わることになり、かつ、そのとき各木片の角部同志あるいは角部と面部等が複雑に接触して重なり合い、それらが各方向に不規則に集合配置され、しかも、このように集合配置された木片間には加圧圧縮の前後を通じ肉眼で認める得るほどの大きさの空隙を介在させるに至ることが容易に推察し得るところであり、そうとすれば、本件特許発明の目指している作用効果もそのまま奏することができることは、さきに述べたところから明らかであろう。

さて、被告のパーテイクルボード製造方法において用いられる核心層用木片が削片機、破砕機等の木材機械を用いて作られる厚さ0.1ないし0.8平均約0.5ミリメートル、幅0.5ないし6.0、平均約2.6ミリメートル、長さ0.5ないし40.0、平均13.7ミリメートルの小木片であることは前記のように当事者間に争いがないところ、ここに核心層用木片を削片機、破砕機等の木材機械を用いて作るというのは、〈証拠〉に本件口頭弁論の全趣旨を参酌すれば、次のようにして核心層用木片を作ることであると認めることができる。

すなわち、まず、約三〇センチメートルの長さに切断し、外皮を剥いだ丸太原木を切削機(削片機)に投入する。ところで、この切削機の下部にはモーターで回転するようになつている直径一、五〇〇ミリメートルの円板(カツターホイル)が水平に設けられ、この円板上に長さ四二〇ミリメートル、幅六〇ミリメートル、厚さ八ミリメートル、ケ引間隔四一ないし四三ミリメートルの一五枚の切削刃がほぼ放射状に取り付けられているので、投入された原木は、右切削刃により木目の方向と平行に切削される。なお、この際、右切削刃は、所望の厚さの切削木片が得られるよう予め刃出をしてセツトされるとともに、その切削稼働中、一時間毎に切削されてできる木片の厚さを測定検査して、もし不都合があればその都度セツトの調整が行われているため、切削されてできる木片の厚さは、所望の一定の範囲の厚さに保たれているとともに、その長さも、前記ケ引間隔の故に、おおむね所望のほぼ一定の長さに保たれるが、その幅は、広狭の差が極めて著しく、一様に保たれない。次に、このようにしてできた切削木片は、削片搬送装置の筒中を風送されて一旦サイロ内に導かれたうえ、一様でない幅を揃えることを主目的として、ウイング・ビーターミル(破砕機)内に風送誘導される。ところで、このウイング・ビーターミルには雌皿の中に嵌め込まれていて、モーターで高速回転する回転翼及びこの雌皿の開口部を塞ぐよう取り付けられ、その内(回転翼)側に放射状の襞多数を備えた丸型扉とからなる破砕機構が設けられているので、風送されて来た切削木片は、右回転翼と扉の襞との間等で攪乱されて衝撃を受け、主として木目に沿つて割られ、すなわち、幅を細分化され、やがて前記雌皿に設けられている孔を通つて機外に排出される。なお、この際、右雌皿に設けられている孔は、所望の幅に細分された切削木片が通過できる大きさにしてあるため、所望の幅以下に細分されていない切削木片は機外に排出されず、一部は極端に細分されて針状となつたものも含み、所望の幅以下に細分されたもののみが機外に排出されることになる。

以上の事実が認められるのであつて、右認定の被告方法において用いられる核心層用木片の作られ方にその前記当事者間に争いない厚さ、幅、長さ、なかんずく、その厚さが、幅と比べても、また、長さと比べても、いずれもかなり小さいうえ、その絶対厚も平均約0.5ミリメートルでかなり薄いものであること等を合わせ考えると、被告方法において用いられている核心層用木片は、主として、不規則で粗く、しかも、比較的小さな面を多数持ち、全体としてほぼ塊状をした雑多な小木片からなるというより、むしろ、主として、幅広い平らな表裏二面を持つた雑多な薄片状をした小木片からなり、これに若干の針状をした小木片が混在しているものと認めるのが相当であると認められる。なお、前認定のようにして作られた被告方法において用いられる核心層用木片は、所定の処理が施されたうえ、さきに散布され不規則に堆積されている表面層用木片を上に載せて一定方向に進行するジユラルミン板上に成型機を用いて不規則に散布され、表面層用木片層上に堆積されることは前記のように当事者間に争いがないところ、〈証拠〉に本件口頭弁論の全趣旨を参酌すれば、右核心層用木片のジユラルミン板上への散布は、進行するジユラルミン板の上方に設けられている成型機からジュラルミン板上めがけて斜め下向きに飛ばし出すようにして行われ、そして、このようにして散布された核心層用木片は、ジユラルミン板の表面に平行に堆積されるに至つていることが認められるが、このように核心層用木片がジユラルミン板の表面に平行に堆積されるということも、核心層用木片が幅広い平らな面を持つた薄片あるいは針状の細片であることを首肯し得る資料である。けだし、核心層用木片が幅広い平らな面を持つた薄片であるならば、ジユラルミン板上に散布するため上から飛ばし出されると、空気抵抗を受けておおむねジユラルミン板面に平行に落下せざるを得ないことはさきに述べたとおりであるし、また、それが針状の細片であるならば、かりにジュラルミン板上に垂直に落したとしても、そのまま板面上の他の小木片に突き刺さることなく、落下後板面上に平行になるよう倒れざるを得ないことは容易に理解できるところであろう。

そして、右認定を動かし、被告方法において用いられる核心層用木片の形状が右認定のような形状と異なつたものであることを認めるに足りる証拠はない。

さて、被告方法において用いられる核心層用木片が右認定のような形状のものであるならば、それが本件特許発明の前記必須の要件にいわゆる小裂木片あるいは小砕木片に該当しないことは、さきに右小裂木片あるいは小砕木片の意義につき説いたところに照らし明らかである。

なお、原告は、被告方法において用いられている核心層用木片は、本件特許発明にいう小裂木片あるいは小砕木片と均等物であると主張するが、被告方法において用いられている核心層用木片をもつては、本件特許発明が目指しているような作用効果を奏することができないことについては、すでに述べたところから明らかであるから、原告の右主張は容認できない。

また、さきに認定したところによれば、被告方法において核心層成型のため核心層用木片を散布して集合配置すれば、核心層用木片は、ジユラルミン板上に平行に重なつて堆積されるのであるから、それが永平方向に不規則に集合配置されることは容易に想像できるが、各方向に不規則に集合配置されるとは到底いい難い。そうすると、被告方法における核心層用木片の成型法は、本件特許発明において必須の要件としている各方向に不規則に集合配置してする方法に該当しないものである。

原告は、被告方法における核心層用木片が水平方向においてしか不規則に集合配置されていないとしても、それは、右核心層用木片の形状に応じてあらわれることがあるところの程度の差の問題にすぎないものであつて、各方向に集合配置されているという概念の埓外に出るものではないというが、本件特許発明にとつて、核心層用木片の形状の点が極めて重要な意義をもつていることは、さきに述べたところから明らかであり、ひいては、このように重要な核心層用木片の形状の差にもつぱら由来するところの集合配置の方法の差を軽々しく取り扱い、原告のいうように、水平方向にのみ不規則に集合配置されたものと各方向に不規則に集合配置されたものとを同視するがごときことは到底許されないものである。

さらに、さきに認定したように、被告方法において用いられる核心層用木片は、主として幅広い平らな表裏二面を持ち、全体として、雑多な薄片状をなした小木片からなり、これに若干の針状をした小木片が混在しているものであつて、これを核心層成型のため散布すると、ジユラルミン板上に一様に平行に集合配置されるに至るのであるから、これら核心層用木片は、その幅広い平らな面同志をもつて平行、かつ、密接に重なり合うことになり、ひいては、その間に肉眼で認め得るほどの空隙を介在させるがごときは、それが絶無であるとは断言できないにしても、ほとんどあり得ないといつて差支えないであろう。そうすると、被告方法においても、熱プレスの際に生ずる蒸気は、核心層用木片間に介在するであろうと推測される微細な空隙から外部に排出させざるを得ないとしても、右微細な空隙は、本件特許発明の必須の要件にいわゆる肉眼で認め得る空隙には該当しないから、被告方法における蒸気排出方法は、本件特許発明において必須の要件とする蒸気排出方法に該当しないということができる。

以上に述べたとおりであり、被告方法は、核心層用木片の点、その核心層への成型に当つての集合配置の点及び熱プレスの際に生ずる蒸気排出の点において本件特許発明の方法と技術を異にするものであつて、本項冒頭において認定した本件特許発明の必須の要件を具備していないものである。したがつて、被告方法は、本件特許発明の技術的範囲に属するものとは認められない。

三よつて、被告方法が本件特許発明の技術的範囲に属することを前提としてなす原告の本訴請求は、爾余の点について判断を加えるまでもなく、理由のないものであることが明らかであるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(高林克己 小酒禮 清永利亮)

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